呪詛師に挟まれる。by死体さん

呪詛師に挟まれる。by死体さん

傀儡呪詛師、呪具師、死体処理専門の二級術師

「やぁ、奇遇だね。こんなところで会えるとは」

「眞尋、進行方向を変えようか。何だか建物が建てられたみたいだし」

「酷いねぇ傀儡君。私は君の術式を高く評価していると言うのに」

「何だか雑音も聞こえるみたいだ、工事中かもね。耳が痛む前に離れよう?」

修羅場とはこの事か。一触即発の空気とはこの事か。今まで何のためにそれらの言葉が存在していたのか分からなかったけれど、今分かった気がする。

街中、まぁ人通りの少ない通り道。見える人は疎で2、3人ほど。そんな中にいる黒い袴の男と圧倒的怪しげな男。と挟まれる私こと死体処理の露鐘。


今、偶然出会った敵対呪詛師であった呪具師の恒河沙天外と、これまた敵対呪詛師であった死体傀儡呪詛師の茅瀬遥が対峙している。

以前無銘の件で敵対し、猫天与を攫って人型呪具やら改造呪具やらをぶっ放し、此方に混乱と欠損と修理費を被らせた奴であり、後から聞いて狙われていたらしい茅瀬が凄く嫌っている。というより基本的に人間好きではないが、ここまで嫌っているのは珍しい。

と言うか、何で平然と出歩いているんだこの呪具師。

「茅瀬、別に良いから...此処からでも遺族のところには行ける。それと...恒河沙?だな、何で出歩いているんだ」

「...あぁ、死体処理の子か。小さいから気付かなかったよ」

生粋の悪人か、それとも元来のものか。煽っているのかは知らないが、まぁ神経を逆撫でするようなことを言ってくれる。お前の身長が高いだけだ、低身長に考慮しろ(現在153cm)

というか、2人の身長が高くて首が痛い。

「話を逸らすな、何で外に出ている?」

「はぁ...仕事に煩い人間だね、君。術式も魅力がある訳でもなければ身体だってそう。傀儡君、何でこんな子といるんだい?」

無視して茅瀬に話しかけている恒河沙。その顔には薄っぺらい笑みが貼り付けられていて酷く不気味だ。顔が整っているから尚更。対して茅瀬はと言うと、恒河沙を無視して此方に話しかけている。此方もびっくりするほど綺麗な笑みを携えて。

「どうしたの眞尋、壁があるんだからそこは歩けないに決まってるじゃない。急がないと遺族の方にも迷惑がかかるよ」

「無視かい、君。少しは関心を向けたらどうだい?」

道行く通行人が此方をチラチラと見ているのが分かる。見ているだけなら助けてくれ、頼むから。この空気の中にいたくない。

喉の詰まりと遠くからやってくる頭痛を感じながら、無理やり言葉を吐き出した。

「...茅瀬、流石に話してあげて。道中で変な空気になるのはきつい」

「...はぁ、それで?呪具も使わなきゃフィジカルすらない奴が何の用?」

「言うねぇ、死体を使わなきゃ君だって同じだろう?それに面倒臭い弱者を態々懐に置いて。君こそそこの死体処理を捨てることをお勧めするよ」

「は?」

悪手だったか...と溜息をついた。頭が痛い。真顔で目を細めた茅瀬は青筋が立っているし、痛いところを突かれたのか恒河沙も組む腕を力ませている。大の男、しかも特級クラスの呪詛師。正直に言おう、こんな所にいたくないし挟まれたくない。とっとと業務を終わらせて寝たい。

「落ち着け、茅瀬...時間に遅れるからそろそろ行くぞ。恒河沙も無為転変から逃げ出したんだろ...連絡しておくから」

「...無為転変から逃げ出したのかは知らないけれど、高専に戻ることをお勧めするよ」

「君こそ、その子を早く捨てることを推奨するよ」

バチバチと火花を散らしながら話す2人を他所に、茅瀬の手を引いて歩き出す。数歩歩いて振り返ると、笑みを向けて手を振る恒河沙。それを見て顔を顰める茅瀬。その表情に2人の関係と何か出来事があったことを知る。


あぁ、胃が痛い。



業務終了後、また出会って修羅場となるのは、知らない話にしておきたい。


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